繋がる想い




手にした灰色のクリスタルを握りしめ、スコールは1人仲間の元へと歩んでいた。
貫き通すと決めた、孤高の道。例え一人でも、仲間と離れていたとしても、繋がる想いがスコールに強さを与えた。いつになく沸き上がるこの感情を、なんと表現すればいいのだろう。それはただ、大きな力を手に入れたあとの不安、寂しさだとか心細さだったのかもしれない。それをなるべく認識しないよう、スコールは歩む足を早めた。

「・・・・・?」
スコールはふと立ち止まり、先ほどから何度か感じていた違和感に耳を傾ける。
小さく、か細いその音は、少しづつ自分のもとへと近づいてくる。
敵意は感じられなかったが、万が一のことを考えスコールはガンブレードに手をかけた。
張りつめた空気を押し流すように、スコールの目の前に突如、闇色の虚空が現れる。まるで蜃気楼のようにぐわりと歪むその場所から、先ほどの音の正体が姿を現した。

視界いっぱいに映るキラキラとひかる金色の糸。それは、スコールが会いたいと願っていた仲間の一人、
ティーダだった。虚空から突如姿を現したティーダは、なおも取り込もうとする歪みに逆らい、やっと自由の効いた足を、地に付ける前によろめいてしまった。
スコールに抱きかかえられる形でなんとか脱出できたようだ。
ぜぇぜぇ息を弾ませるティーダを正面から抱え、スコールは肩に乗っかるティーダの頭を、自分の顔の前へと引き離した。自分と同じ色の瞳と目が合い、一瞬胸の中でなにかが弾ける感覚に襲われた。
極度に緊張した時によく似た、体温を奪われ、ひやりとする身体。寒気がしたのは一瞬のことで、ティーダに触れられている部分だけが、みるみるうちに熱くなるのがわかった。

「・・・あ、あれ・・・?スコール??」
ようやく思考が回復したのか、息を整えながら辺りを見回す。

「・・・・ん、んん?あ、ひょっとして・・・・なんとかトラップってやつ?」
「デジョントラップ。お前、あれほど気を付けろと言われてただろ」
「・・・うわー、かっこわりぃ・・・」

各所にちりばめられた罠のデジョントラップ。飲み込まれれば力を奪われ、別の次元へと飛ばされてしまう危険なものだ。この世界に召喚され、コスモスから使命を受ける際に、最初に教わった注意すべき点であった。にも関わらず、すっかりトラップにかかってしまったティーダは、がっくりとうなだれる。

「しかもスコールだし・・・・」
「しかも・・・・?」
「・・・や、なんでもないッス」

そういってティーダは軽く頭を振りながら誤魔化すように笑った。

「目の前真っ暗になっちゃったときに、とにかく助けを呼ぼうと思って夢中で・・・・聞こえた?」
「なにがだ?」
「これ、」

指を口の端にあてがい、ティーダは思い切り指笛を吹いてみせた。
響きわたる、美しい音。落ちること無い高さのまま、その音はどこまでも遠くに届きそうだった。
ああ、とようやく納得がいったような面もちで、スコールは頷く。トラップが出現する前に聞こえたあの音は
ティーダが吹いた指笛の音だったのだ。

「スコールがこれに気がついてくれたから、助かったのかもな!ありがと」
目を細めて笑うティーダをみて、いつみても眩しいとスコールは感じた。眩しさから目をそらすと、ティーダの手にもまた、自分と同じようにクリスタルが握られていることに気がついた 。
「あ、な〜んだ・・・俺が一等賞だと思ってたのに・・・・スコールも手に入れたッスね」
「競争していた記憶はない」
「・・・・他の奴らは、手に入れたかな?」
「どうだろうな」
「クリスタルが全部揃ったら・・・・」

さっきまで明るい声だったティーダが、すこし曇ったような声をだしたのに驚いたスコールは、黙ったまま彼の目を見張る。

「戦いは終わるんだよな」
「そうだな」
「終わりたくないな」
「・・・・・は?」

終焉無き戦いを終わらそうと、クリスタルを求め、命がけで戦っている自分たちを全否定するような発言。
一瞬聞き逃しそうになるくらい自然に、ティーダの口からでた言葉にスコールは唖然とさせられた。

「あ!戦いは終わってほしいッスよ!
でも、ほら・・・・みんな・・・・とお別れだな、って思ったら、なんか寂しくなってこない?」

慌ててフォローするも、スコールの表情はいぶかしげにティーダを見つめるばかりで。そんな視線に耐えられなくなったティーダは頭に浮かぶ言葉を、次々にスコールにぶつけた。

スコールは早く戦いを終わらせて帰りたいよな?
待っていてくれる人がいるんじゃないのか?
元の世界に帰ったら、最初になにがしたい?

実はそんなことは、少しばかりも聞きたくなどなかった。むしろ戦いが終わっても、仲間と・・・・スコールと別れないで済む方法を、一緒に考えて欲しいくらいだった。本心とは別の言葉を出す自分の口がひどく重く感じて、1つも返事を返してこないスコールを黙って見つめる。
しばらくして、やはり無言のまま踵を返し、スコールは歩き始めた。その少し後ろをティーダは追いかけた。
光の射す方へ進んでいくと、やがて懐かしい仲間の声が聞こえたような気がした・・・・。

「スコールと合流したのは、その後ってわけ。それが俺の物語・・・・ってぇ、話きけよ!」

久しぶりに再開した仲間達に、自分の歩んできた道を報告するも、だらだらと余計なことまで話がちなティーダの長い話は、仲間の耳に届きにくいようだった。自分の話が適当に流されるパターンもお約束。
ティーダはその懐かしい仲間達との戯れに目を細めた。

「置いて行くぞ」

静かに声をかけてきたスコールの呼びかけに応じて、その背中を追う。
仲間たちの最後尾につき、隣にならんで歩きながら、ちらりとスコールの顔を覗く。
すると、その青い瞳に捕らえられた。慌てて逸らそうとしたティーダだったが、

「・・・・忘れないさ、」

スコールの言葉に、ますます逸らせなくなった。

――何を?

聞かなくともわかっていた。先ほどの問いかけの答えなのだと。

――お別れだな、って思ったら、なんか寂しくなってこない?

「・・・・忘れないさ、お前の指笛はどこにいたって聞こえる。だから・・・」

言葉を紡ごうとするスコールの手をとり、ティーダは前を歩く仲間からから見えないように、
こっそりと後ろで手を繋ぐ。
嫌がる素振りをみせないスコールに気を良くしたティーダは、握りしめていた手を少し緩めて、
小指同士を絡ませ、繋いでみせた。
皆に気付かれないとはいえ、なんともくすぐったい要求にスコールは羞恥を募らせた。
しかしその暖かな熱を振り払えるわけもなく。

「うん、スコールが忘れないでいてくれれば・・・・俺は・・・ここにいるから」

本当は・・・もう一度指笛吹いて、誓ってやりたいくらいだけど。
それじゃみんなにバレちゃうもんな。だから、これで

約束。

小さく囁かれた言葉と、繋がれた小指から、ティーダの想いが流れてくるような気がして、
スコールはほんの少し、その指に力を込めた――





- end -